大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)75号 判決 1969年7月11日

主文

原判決を取消す。

控訴人に対し、被控訴人福島は別紙(1)の登記、被控訴人住川は別紙(2)の登記、被控訴人湯浅は別紙(3)の登記の各抹消登記手続をせよ。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

控訴人(原審原告)は主文同旨の判決を求め、被控訴人ら(原審被告ら)は控訴棄却の判決を求めた。

控訴人は請求原因として

(一)  控訴人は昭和三九年五月二九日別紙表示の土地を買いうけて所有権を取得し、同年六月一二日所有権移転登記を終えた。

(二)  被控訴人福島は本件土地について別紙(1)の登記を経由しているが、次の理由により抹消登記をする義務がある。すなわち控訴人は昭和三九年八月下旬福島に対し、本件土地を担保とする金融の仲介を委任したところ、福島は九月上旬控訴人「芝信用金庫から融資をうけるについて、本件土地が埼玉県に住む控訴人の名義になつているよりも東京都内に工場を持つている福島の名義になつている方が融資し易いというから、福島に名義を移してくれ。」と申入れてきた。控訴人はこれに同意して委任事務処理のため福島に本件土地の所有権を移転し、別紙(1)の登記手続をしたのであるが、同月下旬に至り芝信用金庫からの融資は実現しないことが確定し、また他からの融資の見込もなくなつた。前記委任契約は、金融を得られないことを解除条件とする契約であつたから、九月下旬条件成就により終了し、福島は委任の終了に伴ない本件土地所有権を控訴人に返還し、(1)の登記の抹消登記手続をする義務を負うに至つた。よつて福島に対し、右抹消登記手続を求める。

(三)  被控訴人住川は本件土地について別紙(2)の登記を経由しているが、控訴人は福島に対する本件土地返還請求権保全のため、福島の住川に対する右登記の抹消登記手続請求権を代位行使する。すなわち、福島は昭和三九年九月二二日住川に本件土地の登記済証、登記手続委任状および福島の印鑑証明書を預けたが、両人間には右土地の権利移転の合意は全然なかつた。ところが住川は全くほしいままに右書類を使用して(2)の登記手続をしたのであり、従つて福島は住川に対し、実体に即しない住川のための登記の抹消登記請求権があるから、控訴人はこれを代位行使して住川にその抹消登記手続を求める。

(四)  被控訴人湯浅は本件土地について別紙(3)の登記を経由しているが、右述のように住川が右土地所有権を有しない以上、湯浅はどのような権利も取得しないから、(3)の登記は実体に即しないものである。従つて福島および住川は、いずれも湯浅に対して(3)の登記の抹消登記請求権を有するから、控訴人は福島に対する土地返還請求権保全のため、福島に代位して同人の湯浅に対する抹消登記請求権を行使する。右代位行使が許されないとすれば、控訴人は福島に代位し、福島が住川の湯浅に対する抹消登記請求権を代位行使する権利を行使し、湯浅に対し(3)の登記の抹消登記手続を求める。

と述べた。

被控訴人福島は、請求原因(一)の事実は認める。(二)のうち登記の事実は認めると述べた。

被控訴人住川および湯浅は、

請求原因(一)の事実および(二)(三)(四)のうち各登記の事実は認める。

(二)のうち控訴人と福島との間で本件土地所有権移転契約が結ばれたことも認めるが、その余の事実は知らない。(三)(四)のその余の事実は否認する。福島住川間の本件土地所有権移転の経緯は次のとおりである。住川は昭和三九年中福島の依頼に応じ、福島への金融のため次の約束手形を振出した。(1)満期昭和三九年七月三〇日、金額二八九、二〇〇円(2)同じく八月五日、三一〇、五〇〇円(3)同じく八月一五日、二七八、五〇〇円(4)同じく八月二五日、三三一、五〇〇円(5)同じく九月五日、二九〇、三〇〇円。福島は以上合計百五十万円の約束手形を順次割引いて金融の目的を達し、このほか住川は同年八月下旬福島に小切手をもつて二十万円を貸与した。ところが福島が住川に見返りとして交付した五枚合計百五十万円の約束手形は全部不渡りとなつたため、同年九月二六日頃両人間で、右百七十万円の債務の支払に代えて本件土地所有権を住川に移転する契約を締結し、ただちに(2)の登記手続(便宜上売買名義とした。)を終えたのである。次に住川湯浅間の権利移転の経緯は次のとおりである。湯浅は住川に対し、住川の前記福島への貸付金中百五十万円を貸与していたので、同年一二月一七日住川との間で、その債権を担保するため本件土地について代金百五十万円とする売買予約を結び、即日(3)の登記を経由した。右の次第であるから、かりに控訴人主張のように控訴人と福島間に委任契約があり、それが終了して福島が抹消登記の義務を負うに至つても、委任の終了前住川が福島から所有権を取得して登記を経ている以上、福島は抹消登記義務を履行すること不可能であつて、本訴請求は失当である。

と述べた。

(立証省略)

理由

別紙表示の土地を控訴人が昭和三九年五月二九日に買受けて所有者となり、所有権移転登記を経由したこと、この土地について別紙表示(1)の登記がされていることは、各当事者間に争がない。

(福島に対する請求について)原審証人岡田光雄の証言、原審の原告および被告福島ならびに当審の被控訴人福島の各本人尋問の結果によると、原審認定の事実すなわち原判決理由二の六行目「原告は」から段落「できなかつた。」までの事実が認められる。(右の記載を引用する。)右事実によれば福島は控訴人との約束の趣旨に基づき、本件土地の所有名義を控訴人に返戻すべき義務があるから、控訴人は福島に対して(1)の登記の抹消登記手続を求めうることが明らかである。

(住川に対する請求について)本件土地について別紙表示(2)の登記が経由されていることは争いがない。成立に争のない甲第三号証、原審および当審の福島の本人尋問の結果によると、福島はかねてその営業資金の調達のため、住川との間で、相互に多くの融通手形を振出しており、昭和三九年九月下旬に満期の到来する手形も存在した。ところが、福島が控訴人との合意で本件土地について(1)の登記を終えたうえ金策を続けていた同月二二日、たまたま前記手形金の支払の件で面談した住川に右金策の経過を洩らしたところ、住川は「自分が別の金融機関から借りられるように尽力するから権利証を渡せ。」といつて、本件土地の登記済証を、ついで福島の登記手続委任状、印鑑証明書を福島から預り、同月二六日(2)の登記手続を終えた。以上の事実を認めることができる。被控訴人住川および湯浅は、右(2)の登記は代物弁済契約による旨反駁し、原審、当審の住川の供述中には、福島がその当時「この土地をどのように処分してもよいから金を作つて自分の負債の弁済に当ててくれ。」といつた旨の箇所があるけれどもたやすく信用できないから、これをもつて代物弁済の合意を認めることはできない。けだし、住川の供述によつては、住川のどのような債権のどのような金額について代物弁済が成立したのかわからないのであり、他にこの点を明らかにする証拠もない。また(2)の登記が売買名義でされていること、住川が権利証等の預り証(甲第三号証)を福島に交付していることも、住川の主張にそわない資料と考えられる。如上認定のとおりであれば、住川は本件土地所有権を取得する理由がなく、(2)の登記は権利の移転がないのに移転があるとしてされた登記であるから、福島は住川に対してその抹消手続を請求する権利がある。従つて控訴人は、福島に対する抹消登記請求権保全のため、福島に代位して住川に対し、(2)の登記の抹消登記手続を求めうるわけである。

(湯浅に対する請求について)本件土地について別紙表示(3)の登記が経由されていることは争がない。原審および当審の住川の本人尋問の結果によると、住川は湯浅に本件土地を売却し、代金を受領して自己の営業資金その他に当てたことが認められる。しかし住川が右土地の所有権を取得しないことは前段認定のとおりであるから、湯浅がその所有権或はその移転請求権を取得しないことはいうまでもない。そうすると福島は湯浅に対し、権利移動に即しない(3)の登記の抹消を求めうるので、控訴人は福島に代位して福島の湯浅に対する抹消登記請求権を行使することができる。

以上述べたところにより控訴人の本訴請求は全部正当であるから、これを棄却した原判決を取消して右請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条、第八九条、第九三条を各適用し、主文のとおり判決する。

別紙

土地の表示

千葉県市原郡五井町五井字北宿四、九五四番一

宅地      三一坪六合

登記の表示

(1) 右土地についての昭和三九年九月一〇日千葉地方法務局市原出張所受付第七、三一〇号による所有権移転登記

(2) 右土地についての昭和三九年九月二六日同出張所受付第七、八〇七号による所有権移転登記

(3) 右土地についての昭和三九年一二月一七日同出張所受付第一〇、二四四号による所有権移転請求権保全仮登記

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